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「これって……なにかしら?」
大量に荷造りされ、玄関先に積み上げられている、大小の鞄や衣装ケエスの数々。
今日って、なにか催し物あったかしら?
はるが不思議に思いながら首をかしげていると。
「あっ、馬鹿ね、あんた!まだこんなところにいたの?何よ、なんにも身支度してないじゃない!!何やってんのよっ急ぎなさいっ」
「えっ、ええ?た、たえちゃん、この荷物っていったいなんなの?」
せっせと車にそれらを積み込んでいるたえと使用人たちに交じって、はるも荷物を運ぼうとしていると、たえの甲高い声がそれを押し止めた。
「違うわよ!あ、あんたっ…まさか、忘れてるの?こんな大事なことを?!」
「え?な、なんだったっけ?」
他の荷物よりもひときわ大きな箱を抱え上げながら、たえは驚きも隠さずにはるに告げる。
「新婚旅行よ!あんたと、雅様の!忘れちゃったの!?」
「え……っ?」
ぽかん、とたえの顔を見つめていたはるだったが。
「ええーーー!し、新婚旅行っ?き、聞いてないんだけどっ?」
「遅い!いったい何やってたのさ?そののろまさ加減はいつまでたっても治らないわけ?」
不機嫌そうに口をへの字にして車のシートに深く腰かけている雅を、はるは困惑顔で見つめた。
「だ、だって、雅様……?わたし、何も聞いていないのですが……」
わけがわからないまま、大急ぎで支度をして、これまたわけもわからぬまま車に乗せられ、そこではるを待っていた雅の不興を買うことになった経緯の原因がなんなのか、はるにはさっぱりわからなかった。
「はっ?はあああああっ!?い、言っただろっ!もうっ、おまえの記憶力は鳥並みなわけ!?」
「え、ええと……い、いつ、どこで、でしたでしょうか?」
とたんにムッとして、雅はぷいっとそっぽを向いてしまった。
「知らないよ!」
気まずい車中、結婚が決まってから式を挙げて以来の出来事を必死で思い返していたはるは、やっとのことでそれらしき記憶に思い当たって声をあげた。
「ああー……!そういえば!もしかして、あれが……いえ、まさか」
つぶやくはるを、雅が、じっとりとした目で見やる。
「……ほんっとに、忘れてたの……?信じられないね!最低!」
さらに機嫌を悪くしてしまった雅に、はるは笑顔をはりつけて尋ねてみる。
「そ、それで…これから、どこに行かれるのでしょうか?」
「………………ふんっ!」
こうなってしまっては、暫くは口もきいてもらえなさそうね……
はるが思い当たったこと。それは、結婚の約束をしてから初めて二人きりで宿に泊まったときのことだ。
食事も風呂も済ませた二人が、部屋で何をするともなく他愛のない話をしながら過ごしていると、ふいに雅がはるに探るような視線を向けてきたのだった。
「……おまえ、さ……わかってるの?」
「何が、でしょうか?」
「っ……だから、その……」
「?」
「なっ、なんでもない……!」
「ヘンな雅様。あ、もしかして、眠くなってきたとか?じゃあ、お布団、敷きますね!お部屋が広いですけど……どのあたりに敷きましょうか?」
「っ……そ、そんなの、適当に敷といてよ」
「わかりました」
そうして、せっせと布団を敷いていたはるだったが。
「ななななな、何やってんの!?お、おまえはあっち!」
慌てたような雅の声に、作業を中断させられたのだった。
「え?ですが……」
「おまえは、使用人なんだから!使用人なんかの隣でなんて眠れるわけないだろ……!馬鹿!?」
「そ、そうでしたね、申し訳ありません……じゃ、わたしは、こっちの隅のほうに敷きますね」
狭い家に住んできたはるにとって、布団は並べて敷くのが当然のことだったので、いつものようにぴたりと並べて敷いていたのだが、それがどうやら雅の気に障ったようだ。
そうよね……いくら結婚の約束をしているからって、調子に乗るなということよね……
ずるずると部屋の端に自分の分の布団を引きずりながら、はるは自重しなくちゃ、と心を新たにする。
すぐ隣で眠れたら、きっととても幸せな気持ちで眠れるだろうと思っていたけれど。
まあ、だけど、同じ部屋で眠れるだけでも、雅様にしてみたら大した進歩よね……
「じゃあ、おやすみなさい、雅様!」
「…………」
「雅様?どうし」
「煩いっ……寝るっ!おやすみっ!」
「は、はい。おやすみなさい……」
はるの手で電気が消されて、室内は真っ暗になる。
部屋の真ん中あたりに雅が、部屋の隅にははるが布団にもぐりこんで横たわっている。この距離なら、寝息も聞こえないですみそうだ。けれども、せっかく同じ部屋で寝ているのだからと、はるは雅に声をかけてみた。
「……雅様」
「…………」
「もう眠っちゃいましたか?雅様?」
「……なんなの?」
「よかった!まだ起きてらしたんですね!」
「おまえの声で目が覚めちゃったんだよ!せっかくうとうとしかけてたのにさ!」
「え……そ、そうでしたか。それは申し訳ありませんでした……ただ、寝付くまで少しお話をしたいなと思って」
「話なんか、さっきだってしてただろ」
「そ、それはそうなんですが……すみません、起こしてしまって。おとなしく眠ることにします……」
「っ……い、いいよ、どうせもう、目がさめちゃったんだし……勝手に何か話せば!」
「いいんですか?じゃあ……雅様は、わたしのどこを好きになって下さったのですか?」
ぐぐっ、とむせるような気配がしたか思うと、雅が早口で捲し立てるように声を荒げた。動揺しているのか、声がいつもより少し高いみたいだ。
「っ、そんなこと聞いてどうすんのさ!?言っただろ、おまえは他とは違うからだって!」
「だって、それではなんだか漠然としているじゃないですか。この際なので、どこがどう違っているのかお聞きしたいと思って……」
「いいんだよ、そんなの細かく考えないで!じゃあ、おまえはどうなのさ?」
「わたし、ですか?」
「うん、おまえは、僕のどこが好きなわけ?」
「好き……なんでしょうか?」
「ちょっと!今さら何言ってるわけ!?」
「あはははは、嘘です!私が好きな雅様はですね」
「言っとくけど!前みたいに性格悪くて捻くれ者で好き嫌いが多くて意地悪でどこを好きになったんだかわからないとか言ったら殺すから」
「ふふっ、性格悪くてひねくれ物で好き嫌いが多くて意地悪で、だけどとても優しい雅様が、わたしは大好きなんです」
「…………」
「聞いてました?雅様の、全部が大好きなんです」
「……ふん!やっぱり、馬鹿だね。おまえって、普通じゃないよ」
「雅様、ずばり今、照れているでしょ?」
「て、照れてなんか、ないし!」
「またそんな嘘ついて……でも雅様のそういうところも好きなんです」
「や、やめてくれない?その、『好き』の大安売り。お、おまえらしくないし!」
「だって、こんなときじゃないと滅多に言えない気がするんです。だからちゃんと聞いてて下さいね?わたしは、雅様のことがとても大事で」
「もうっ!やめろって、言ってるだろ……っも、もう寝たらっ!?」
こういうときの雅様って、すごく可愛いな、なんて思いながら、はるは、くすくす笑って布団の中で寝返りをうった。自分の想いをすんなりと口にすることができたせいか、なんだか満たされた気持ちになる。
「相手に気持ちを伝える事ができるって、こんなに幸せなことだったんですね……」
初めて知ったと言いたげに、しみじみとはるがそう言う。
「わたし、雅様に出会えて、本当に良かったです。そうじゃなかったら、こんな感情知らなかったかもしれませんし」
「…………」
「きっと、相手が雅様だから、ちょっとのことでも嬉しくなったり、悲しくなったりするんだと思うんです。いいことも悪いことも今までありましたけど、雅様のことばかり考えるようになってからというもの、やっとわたしは自分に生きている価値があるんじゃないかって思えるようになったんですよ?」
「…………」
はるは、雅から何の返答もしてくれなくなったことに気が付いて、はたとして口をつぐんだ。
雅様、もう眠ってしまうのかな?それなら、わたしも眠らなきゃ駄目だよね。
これ以上雅の睡眠の妨げになってもよくないだろうと、はるは会話を切り上げることにした。
もう寝ているのかな、と思いながらも、一応ひそめた声を掛けることにする。
「勝手に一人でしゃべってしまって、ごめんなさい。じゃあそろそろ」
「……はる」
ふいに雅に名前を呼ばれて、はるはどきりとする。
なんだか呼びかけるその声が、さっきよりもずっと近いような気がした。
さっきより近いというか……すぐそばから聞こえるような?
「雅様?」
暗闇に慣れてきた視界に、雅の姿が浮かび上がる。
「おまえがくだらないことばかり話しかけてくるから、目が冴えて、眠れない」
「それは、申し訳……」
ありませんでした、と言葉を続けることができなかった。
そっと前髪を撫ぜられ、頬に柔らかな感触が落ちてきて、はるは驚いて息をのんだ。
「雅さ……」
頬からなぞるようにして唇に触れたその吐息が、はるの言葉をふさぐ。
髪を撫ぜていた手が、その唇を捕えるためにはるの頤をほんの少し上向かせた。
大切そうに、ついばむように触れていた唇が、しっとりとした潤みと熱さをおびて深く重ね合わされる。
はるは、壊れそうなほど跳ね上がる心臓の音が頭の先まで響く感覚と、くらりとしたと眩暈を覚えて、雅の服の端をきゅっとつかんだ。
何度目の接吻かはわからないけれど。
いつもしているものとは、なにかが違う。
雅様の唇が、いつもより熱っぽくて、愛おしげで。
好きだと言ってもらえているようなその快さに、溺れて、しまいそう。
雅は、縋るように自分の服をつかんでいたはるの手をほどくと、指を絡ませ、布団の上に拘束して、なおも唇を重ねる。
「はる」
……眠れなくなった責任、とりなよ
口づけの合間に囁かれて、はるは、びくりと体を震わせた。
「ま、まままま、雅様っ!?」
雅の手が、はるの胸元にのびて、寝巻の合わせから滑り込んできたのだ。
「なに」
「そ、それは、ちょっと、まだ、は、早いのではないかと……っ」
「こんなのに早いとか、遅いとかあるわけ?」
「あ、あああ、ありますよ……っけ、結婚してからでもよろしいのでは?」
「そんなの、関係ない。僕は、今、したいんだけど」
「し、したいって……したいって、そんな……」
「……おまえは、嫌なの?」
「いいい、嫌なんかじゃ、ないですけどっ。その、心の準備というものがありましてですね……!」
「じゃあ、その準備って、いつになったら終わるのさ」
「そ、そうですね……結婚して、一月くらいしてから、でしょうか?」
「はあ!?そんなに先なの!?」
「というか、それが普通なんじゃないかと……ほら、近頃流行りの新婚旅行とかいうものなんかで……その……」
「…………」
「お、怒りました?」
「わかった。おまえの嫌がることは、したくないからね。待ってやるよ」
「よ、よかった」
明らかにほっとしたはるに、雅はむかっとして言葉を翻す。
「でも、一月も待たないから!式をあげたら、三日後に旅行だからね!わかった!?」
「み、三日、ですか……そっか、そうですよね、でもそれくらいなら……まあ……」
「なにそれ!?もうっ!僕を待たせるなんて、ありえないんだけど!わかってるの!?」
はるの上に覆いかぶさるようにしていた雅が文句を言いながら体を起こすと、はるが、はっとしたように雅を呼び止めた。
「あ、あの、雅様?」
「今度は何?」
起き上がって雅に向かい合ったはるは、思い切った事を言ってみる。
「やっぱり、お布団、隣に敷いてもいいですか?」
「……何言ってるの?はあ……おまえって……ほんと、最低」
「すみません……そうですよね勝手ですよね。今度こそ、ちゃんと寝ます」
「そうじゃなくて!もう!いちいち布団持ってこなくていいって言ってんの!」
「きゃ……っ!?」
雅は、はるの手をとって部屋の中央までぐいぐいと引っ張ってくると、ぼすん、と自分の布団の上に投げ出したのだった。
「ほら、ちゃんと布団掛けて!もう少しそっちいきなよ、僕が寝れないだろ……!」
え?
ええええええ!?
雅様と、一緒のお布団で?!
「……ちょっと……何、体固くしてんのさ。何もしないって。僕の言うこと信じてないわけ?」
「そ、そういうわけじゃないんですが……なんだか、緊張しちゃって」
「っ、緊張とか、言わないでくれる?僕まで寝づらくなるじゃない」
「そうですよね。や、やっぱり、わたし、自分の布団で」
「い、いいんだよ!このままで!勝手に戻ったりしたら解雇するからね!」
布団から出ようとしたはるの体を、雅の腕が引き寄せ、ぎゅうっと、抱きしめる。暗くてよく見えないけれど、その顔はきっと、真っ赤に染まっているのだろう。
「……ここにいなよ、馬鹿最低使用人!」
続きはピクシブにかいています~
華ヤカ哉、我ガ一族 二次創作
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