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菫色の恋 11 コンワク再会




こうなったら、直接敦賀さんに会いに行くしかない。

自転車を飛ばして、キョーコは蓮のマンションの前に来ていた。
エントランスに入る前に、もう一度電話をかけてみようと試みる。


「あ、今、携帯は使えないと思うンダ」

「はっ!?」

携帯を耳につけたそのとき、「元凶」と思われる人物の声がした。
いつの間に、隣に来ていたんだろう。

「助監督!?いったい、これは…」

キョーコはその首根っこを掴もうと手を伸ばすが、すいっと避けられてしまった。

「ウン、準備オッケー、さあ、スタンバイ」

「へっ…あ、あれ?」

――も、もういない…?!!どういう人なの?!あの人は?!






インターフォンからはちゃんと蓮からの応答があり、キョーコはその声にほっと息をついた。
ロックが開錠されたのでエントランスを抜け、玄関の前に行くと、扉が、開いた。だが――


「っ!?」

…な――

なんで、そんな目で睨んで――?

「あ…」

――つ、敦賀、さん?

思わず後ずさりをするキョーコに、蓮は辛辣な笑みを浮かべる。

「こんなところへ、いったい何のご用です?」

「……っ?!」

わっ、私?!私に、言ってるの、よね――?!

さっきのインターフォンの感じと、全然違うんだけど――?!

なんだか、ものすごい、敵対心を感じる。

その目にあるのは――憎しみ…なんだろうか…?

「あ、あの…」

なんで、だろう…ものすごく、歓迎されてないみたい…

「――お願いします…お話を聞いて欲しいんです」

キョーコの口が、自然と言葉を紡ぐ。

「頼む相手を間違ってないかな、俺にそれを言ってどうするんだ?」

「先生は、あなたを相手役候補にしていると聞きました。ぜひ、あなたから先生に交渉してはいただけないかと」

「君は、本当に馬鹿だな。人を見る目も無いのか」

「なっ…」

「母親に媚を売るのがうまくても世の中は渡っていけないよ?」

「こ、媚なんて売ってません!」

母親のことを言われて、カチンとくる。

――な、なんなの、この人!

あんな良い演技をするくせに、性格は最悪?!

も、もう頼まないわ…!

「そうですね、私としたことが、とんだ見当違いをしてしまって。あなたに頼みにくるなんて、とんだ無駄足でした」

「ええ、もう二度と、姿を現さないでほしいですね」

不信感いっぱいの目で睨まれて、むむっと口を引き結んだ。

――う、わ、は、腹が立つぅーーーーー!!









「どうした?最上さん?なにか、怒ってる?」

「え…」

敦賀さんのマンション。玄関先で、敦賀さんが私の顔を窺っている。

「い、いえ…」

なんだろう…今の…白昼夢?!

何かすごくもやもやしたもので、胸いっぱいだったような…


「それにしても、こんな夜中によく来たね、なにか急用が?」

「あっ…す、すみません!夜遅くにご迷惑ですよね」

「いいよ、最上さんだったらいつでも大歓迎だから」

「は、はあ…」

相変わらずリップサービスがうまい…

「あの、電話番号、変えたんですか?」

「ん?変えてないけど?」

「え、でも、さっき…」

説明のために携帯を出して、蓮にかけてみる。

今度は、ちゃんとつながった。

「…」

不気味をとおりこして、腹立たしい。キョーコは不機嫌に眉をしかめる。

――なんなの…?私を小馬鹿にしてるとしか思えない…!


「っすみませんでした…連絡が取れないので心配になってしまい…」

「ありがとう、なんともないよ」

「でも来てみてよかったです。なんだか…顔を見たらほっとしました」

キョーコがそう言うと、ふわりと頭を撫でられた。

顔を見上げると、目を覆いたくなるくらいの慈しみの眼差しが自分に注がれている。

「!」

急に、胸の鼓動が大きくなる。

う…わ…

こんな迷惑な後輩なのに、敦賀さんは本当に、優しい…な…

――ていうか、これは何の魔術…?!

頭を撫でられるのが、こんなに心地いいなんて…しかも、一旦あわせてしまった視線が外せない――

「?!」

頭をなでていた手が頬に触れ、キョーコの心臓が飛び上がらんばかりに高鳴る。

ぐぐっと無理やり視線をそらすと、ぺこりとお辞儀をした。

「っ、じゃ、じゃあ、私、帰ります!夜分遅くに、大変失礼いたしました!」




あ、危ない…!敦賀さんってなんであんなに、むやみやたらに色気があるのかしらね…
本人は意識していないんでしょうけど、もうちょっと自覚してほしいものよね。

そうじゃないと…迂闊に無事を確認にも来れない…


慌てて飛び出してきたキョーコは、自転車をこぎだしてから、はたと気づく。



――わ、私の馬鹿ーーーー!!

か、

肝心な事、聞いてこなかった――…!!


何しに行ったのよ私はーーーー!












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