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こうなったら、直接敦賀さんに会いに行くしかない。
自転車を飛ばして、キョーコは蓮のマンションの前に来ていた。
エントランスに入る前に、もう一度電話をかけてみようと試みる。
「あ、今、携帯は使えないと思うンダ」
「はっ!?」
携帯を耳につけたそのとき、「元凶」と思われる人物の声がした。
いつの間に、隣に来ていたんだろう。
「助監督!?いったい、これは…」
キョーコはその首根っこを掴もうと手を伸ばすが、すいっと避けられてしまった。
「ウン、準備オッケー、さあ、スタンバイ」
「へっ…あ、あれ?」
――も、もういない…?!!どういう人なの?!あの人は?!
インターフォンからはちゃんと蓮からの応答があり、キョーコはその声にほっと息をついた。
ロックが開錠されたのでエントランスを抜け、玄関の前に行くと、扉が、開いた。だが――
「っ!?」
…な――
なんで、そんな目で睨んで――?
「あ…」
――つ、敦賀、さん?
思わず後ずさりをするキョーコに、蓮は辛辣な笑みを浮かべる。
「こんなところへ、いったい何のご用です?」
「……っ?!」
わっ、私?!私に、言ってるの、よね――?!
さっきのインターフォンの感じと、全然違うんだけど――?!
なんだか、ものすごい、敵対心を感じる。
その目にあるのは――憎しみ…なんだろうか…?
「あ、あの…」
なんで、だろう…ものすごく、歓迎されてないみたい…
「――お願いします…お話を聞いて欲しいんです」
キョーコの口が、自然と言葉を紡ぐ。
「頼む相手を間違ってないかな、俺にそれを言ってどうするんだ?」
「先生は、あなたを相手役候補にしていると聞きました。ぜひ、あなたから先生に交渉してはいただけないかと」
「君は、本当に馬鹿だな。人を見る目も無いのか」
「なっ…」
「母親に媚を売るのがうまくても世の中は渡っていけないよ?」
「こ、媚なんて売ってません!」
母親のことを言われて、カチンとくる。
――な、なんなの、この人!
あんな良い演技をするくせに、性格は最悪?!
も、もう頼まないわ…!
「そうですね、私としたことが、とんだ見当違いをしてしまって。あなたに頼みにくるなんて、とんだ無駄足でした」
「ええ、もう二度と、姿を現さないでほしいですね」
不信感いっぱいの目で睨まれて、むむっと口を引き結んだ。
――う、わ、は、腹が立つぅーーーーー!!
「どうした?最上さん?なにか、怒ってる?」
「え…」
敦賀さんのマンション。玄関先で、敦賀さんが私の顔を窺っている。
「い、いえ…」
なんだろう…今の…白昼夢?!
何かすごくもやもやしたもので、胸いっぱいだったような…
「それにしても、こんな夜中によく来たね、なにか急用が?」
「あっ…す、すみません!夜遅くにご迷惑ですよね」
「いいよ、最上さんだったらいつでも大歓迎だから」
「は、はあ…」
相変わらずリップサービスがうまい…
「あの、電話番号、変えたんですか?」
「ん?変えてないけど?」
「え、でも、さっき…」
説明のために携帯を出して、蓮にかけてみる。
今度は、ちゃんとつながった。
「…」
不気味をとおりこして、腹立たしい。キョーコは不機嫌に眉をしかめる。
――なんなの…?私を小馬鹿にしてるとしか思えない…!
「っすみませんでした…連絡が取れないので心配になってしまい…」
「ありがとう、なんともないよ」
「でも来てみてよかったです。なんだか…顔を見たらほっとしました」
キョーコがそう言うと、ふわりと頭を撫でられた。
顔を見上げると、目を覆いたくなるくらいの慈しみの眼差しが自分に注がれている。
「!」
急に、胸の鼓動が大きくなる。
う…わ…
こんな迷惑な後輩なのに、敦賀さんは本当に、優しい…な…
――ていうか、これは何の魔術…?!
頭を撫でられるのが、こんなに心地いいなんて…しかも、一旦あわせてしまった視線が外せない――
「?!」
頭をなでていた手が頬に触れ、キョーコの心臓が飛び上がらんばかりに高鳴る。
ぐぐっと無理やり視線をそらすと、ぺこりとお辞儀をした。
「っ、じゃ、じゃあ、私、帰ります!夜分遅くに、大変失礼いたしました!」
あ、危ない…!敦賀さんってなんであんなに、むやみやたらに色気があるのかしらね…
本人は意識していないんでしょうけど、もうちょっと自覚してほしいものよね。
そうじゃないと…迂闊に無事を確認にも来れない…
慌てて飛び出してきたキョーコは、自転車をこぎだしてから、はたと気づく。
――わ、私の馬鹿ーーーー!!
か、
肝心な事、聞いてこなかった――…!!
何しに行ったのよ私はーーーー!
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