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その人は、本の持ち主であり、キョーコにその仕事を勧めた張本人。
「椹さん…」
「お、どうした?そんな怖い顔して」
「お借りしていた本、返しにきたんですが」
「貸してた本?君に貸してる本なんてあったっけ?」
キョーコは、す…と、本の入った手提げ袋を差し出す。
「またそれかぁ…それ、俺貸した覚えないんだよな。蓮にも同じこと言われたんだけど…だいたい俺、その本読んだこともないし」
「え…!?」
えええええええええええ!?
あんなに熱く語ってたのに?!嘘でしょう?!
じゃあ、コレ、誰の本だっていうの?!
「あの、敦賀さんは、本のこと、何て言ってました?」
「借りてた本返しにきたんだけどって。俺が、貸してないって言ったら、蓮のやつ、深刻そうな顔してさ」
――深刻そう?
「俺に借りた気はするんで持ってきたけど、違うって言われて誰に返していいか分からなくて困ってたみたいだな」
いえ、そんな簡単な話じゃ、ないんですけど…
「本当に…覚えてないんですか?」
「へ?何をだよ?」
「だから、その…」
きょととしている椹に、キョーコは説明するのをためらう。
――追求したって、この様子じゃ、何も覚えてなんていないんだろうな…
「あ、もしかして、社長が言ってたドラマの話?!あれって、おまえ、誰かに騙されたんじゃないのか?馬っ鹿だなー誰にでもほいほいついていくなよ?子供じゃないんだから!」
「………」
――騙されたとしたら、椹さん…あなたにだと思いますけど…?
やっぱり、これは、敦賀さんに話を聞かなきゃ――
控え室の扉の前で、キョーコはその人の姿を見つけて呼び止める。
「敦賀さん!」
振り返った蓮に、本を一冊、突き出して見せる。
「この本!敦賀さんも椹さんに借りましたよね?」
「最上さん…どうしたの?こんなところまで…」
キョーコのいきなりの行動に驚いて気押されながらも、蓮は本を手に取り頷いた。
「……この本、最上さんも借りたんだったね」
「っ!そうです!覚えてますよね?」
あーーーーや、やっと、話ができる!!
ここまでの道のりが、すっごく長かった気がする…!!
じーんと感涙に咽ぶキョーコだったが。
「この後すぐスタジオ入りしないといけないんだ。悪いんだけど、話はまた今度に…」
はっ…!
「待ちます!終わるまで、お待ちしてます!!」
「いいよ、いつ終わるか分からないし、終わったらこっちから連絡するから。待ってるの、大変だろう?」
「平気です!敦賀さんと少しでも早くお話がしたいんです…!この下で、待ってますから!」
「……わかった、じゃあ、終わったらすぐ行くから」
必死の形相のキョーコに、蓮は微笑んでそう言うと、スタジオでの撮影へ行ってしまった。
はあ…、と息をついてその姿を見送ると、キョーコは一階のロビーにベンチがあったことを思い出してそちらへ向かう。
――よかった!私だけじゃ、ない!
敦賀さんの記憶にあるなら、確かな事だもの!
私の頭がおかしくなったんじゃなくて、本当に、よかったぁ――
胸を撫で下ろしてエレベーターを待っていると、廊下の奥から見覚えのある人物が二人、こちらにむかっていることに気がついた。
――あれって…まさか!!
祥子さんと…ショータロー…!?
嫌だっ!こんなところで遭遇するなんて…!
エレベーターの扉が開いたのを幸いに、急いで乗り込むと、階数ボタン付近の死角に隠れて身を潜める。
そうして、がしがしがし…と、急いで「閉」のボタンを連打するが…
「あっ、すみませーん、乗りまーす」
小太りの男性がエレベーター内に無理矢理滑り込んできて、扉は再度大きく開いてしまった。
「!!」
「あれ?これ下行くのか、すみません、間違えちゃって」
い、いやあああああああ!!
ちょっと、アナタ、そのうっかりが、今どれだけの迷惑をこうむっているかお分かり?!
男性がのそのそとエレベーター内から退出するのと入れ替わりに、恐れていた事態が近付く。
焦るキョーコの横を通り抜け、二人がエレベーターに乗ってきたのだった――
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