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う、恨むわ…!名も知らぬうっかり氏…!
二人と目を合わせないように横を向いて、今度は「開」ボタンを連打して、エレベーターからすっと抜け出る。
「あら?キョーコちゃん?キョーコちゃんよね?」
ここは人違いのふりして逃げ…
「っ」
強行逃走しようとするも、祥子の後ろから腕が伸びてきて、キョーコの後頭部をがっし、と鷲掴んだ。
そのままエレベーターに引き戻され、無情にも目の前で扉が閉まる。
「何、逃げようとしてんだ、おまえ」
「痛…っ!に、逃げようとなんてしてないわよ…!!」
「ちょっと、尚!女の子にそんな乱暴なことしないの!それはそうと、キョーコちゃん、どうして、ここに?」
そ、それを聞かれたくなかったから…!知らん顔しようと思ったのに…!!
敦賀さんを待ってるなんて言ったら、こいつにどんな厭味言われるか知れない!!
「いーーーっつまで掴んでんのよ!!」
ぶいっと尚の手を払って、キョーコはぎっと相手をにらみ付けた。
「私は、忙しいの!あんたを相手にしている暇ないんだから!」
「はっ、どうせ碌な用事じゃないんだろ。その目障りなピンク着てるってことは」
っ…そ、そうだった…!つなぎで来てたんだった、私の馬鹿…!
これ着てて人違いのふりとか、無茶すぎる…!
「っほっといてよ!あんたといると目立つんだから!」
「目立ってんのはおまえの格好で俺のせいじゃねーんだよ」
「うるさいわね!私なんかに構ってないで、いいからさっさと仕事行きなさいよ!」
「仕事?終わったんだよ、ここでの用は。だから下りのエレベーター乗ってんだろうが」
「じゃあ、さっさと帰れば!」
「いちいち突っかかって可愛くねーな…おまえに指図されなくても、俺は俺の好きなときに帰るんだよ!」
えーえー早く帰って頂戴!!
あー出くわしたのが、敦賀さんがいるときじゃなくてよかった…!
一階への扉が開き、エレベーターの狭い空間から解放されて、キョーコはロビーへと足を向ける。
と、キョーコに背を向けて帰るかにみえた尚が、ぐいっと顔を近づけて睨み付けてきたのだった。
「…なんなのよ」
「今…おまえ、ほっとしただろう?」
「そりゃそうでしょ!あんたなんかと同じ空気吸うの苦痛だったんだから」
「そうじゃなくて…なんか、気にくわねーな…おまえ、もしかして…」
なに…こいつ…
「誰か、待ってるんだ…そうなんだな?」
なんで、そんなに絡んでくるわけ…!!?
「あんたに関係ないでしょう?私が誰を待っていようが、どうだっていいじゃない!」
「おまえのさっきの顔…」
「は?」
「学校の放課後に下駄箱んところで俺を待ってて俺が見つかんねーように隅から帰ろうとしたのにそれを見つけた時の顔と、そっくりだった…」
何その具体的な例え…っていうか!!
「そんな昔のこと、なんで今言われなきゃいけないわけ?だいたい、あんたは昔から卑怯だったのね!」
「何がだよ?」
「自分の事を待ってるって知ってるくせに、こそこそ帰るような真似して!」
ちらりと、尚がキョーコの後ろに目を向ける。
「いまかいまかと好きな人を待ついたいけな乙女心を弄ぶなんて、鬼か悪魔のすることよ!」
気にせず、尚を罵るキョーコだったが…
「お待たせ、最上さん」
声に、凍りつく。
何で…こんなに早く?!
っ!!タイミング、合わせすぎでしょう…!!
「ごめんね?弄んだつもりは全然ないんだけど」
驚いて振り向くと、予測通りの凄くいい笑顔だ。
「へっ?あっ…!違うんです、それは…」
「違う?撮りの順番が変わったから、最上さんが待ってると思って急いで来たんだけど…」
蓮は、キョーコの向こうにいる尚に目をやる。
「もしかして、遅いほうがよかった?」
「はー、おまえの待ち人は、ホント自意識過剰だな。なんで、自分の話だと思うかね」
蓮の視線を受けて、尚が嘲笑う。
その態度に、キョーコの切れっ放しの堪忍袋の緒が、ぶっつぶつの細切れと化していく。
っどうしてコイツはこうも好戦的なのよ…!
「っ祥子さん!」
「え?」
完全に傍観者を決め込んでいた祥子に、ぎゅっと尚を押しやって、キョーコはぎんっと目を光らせた。
「コレ、ちゃんと管理お願いします…暴言吐いたら叩きのめすくらいの厳しさが、アナタにはもっと必要なんじゃないでしょうか…!」
「え、ええ…暴言というよりは、なんだか仲よさそうに話してたから、邪魔しちゃいけないと思って」
「っそんなワケないじゃないですか…!」
「尚が楽しそうか、そうじゃないかで判断してるものだから…ごめんなさいね?」
奴基準?!それってマネージャーとしてどうなの?!
「楽しそうになんてしてねーだろ…」
すっかり不貞腐れた顔で、尚はそっぽを向く。
「とにかく!しつけはキチンとしておいてくださいよ?!」
「俺は、犬か猫か!」
「似たようなものじゃない!犬猫より始末悪いわよ、あんたなんて年中盛りが」
「最上さん」
尚にくってかかるキョーコを、蓮が押し止める。
「話があるんだろう?早くしないと、時間が無くなるよ」
「あ…は、はい…」
そうだった…敦賀さん、一旦抜けて来てくれたのに、私ったら…なんて失礼なことを!!
ただでさえ、こんな男かまってる余裕なんてないのに…!
「すみません…」
「いいよ、ここじゃ落ち着いて話もできないだろう?こっちおいで」
え…
すっと手を繋がれて、来た道を戻る…エレベーターに乗り、蓮の指が控え室のある階のボタンを押す。
不服そうな尚と困り顔の祥子の姿がちらと見えたが、扉が閉まるとそんな煩わしい様子も気にならなくなった。
気になるのは…
「あの…敦賀さん…?」
キョーコは蓮の表情をうかがう。
気にかかるのは、蓮が今何を思っているのか、だけだった。
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