忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

菫色の恋 14 オニか悪魔




う、恨むわ…!名も知らぬうっかり氏…!

二人と目を合わせないように横を向いて、今度は「開」ボタンを連打して、エレベーターからすっと抜け出る。

「あら?キョーコちゃん?キョーコちゃんよね?」

ここは人違いのふりして逃げ…

「っ」

強行逃走しようとするも、祥子の後ろから腕が伸びてきて、キョーコの後頭部をがっし、と鷲掴んだ。

そのままエレベーターに引き戻され、無情にも目の前で扉が閉まる。

「何、逃げようとしてんだ、おまえ」

「痛…っ!に、逃げようとなんてしてないわよ…!!」

「ちょっと、尚!女の子にそんな乱暴なことしないの!それはそうと、キョーコちゃん、どうして、ここに?」

そ、それを聞かれたくなかったから…!知らん顔しようと思ったのに…!!

敦賀さんを待ってるなんて言ったら、こいつにどんな厭味言われるか知れない!!

「いーーーっつまで掴んでんのよ!!」

ぶいっと尚の手を払って、キョーコはぎっと相手をにらみ付けた。

「私は、忙しいの!あんたを相手にしている暇ないんだから!」

「はっ、どうせ碌な用事じゃないんだろ。その目障りなピンク着てるってことは」

っ…そ、そうだった…!つなぎで来てたんだった、私の馬鹿…!

これ着てて人違いのふりとか、無茶すぎる…!

「っほっといてよ!あんたといると目立つんだから!」

「目立ってんのはおまえの格好で俺のせいじゃねーんだよ」

「うるさいわね!私なんかに構ってないで、いいからさっさと仕事行きなさいよ!」

「仕事?終わったんだよ、ここでの用は。だから下りのエレベーター乗ってんだろうが」

「じゃあ、さっさと帰れば!」

「いちいち突っかかって可愛くねーな…おまえに指図されなくても、俺は俺の好きなときに帰るんだよ!」

えーえー早く帰って頂戴!!

あー出くわしたのが、敦賀さんがいるときじゃなくてよかった…!

一階への扉が開き、エレベーターの狭い空間から解放されて、キョーコはロビーへと足を向ける。

と、キョーコに背を向けて帰るかにみえた尚が、ぐいっと顔を近づけて睨み付けてきたのだった。

「…なんなのよ」

「今…おまえ、ほっとしただろう?」

「そりゃそうでしょ!あんたなんかと同じ空気吸うの苦痛だったんだから」

「そうじゃなくて…なんか、気にくわねーな…おまえ、もしかして…」

なに…こいつ…

「誰か、待ってるんだ…そうなんだな?」

なんで、そんなに絡んでくるわけ…!!?

「あんたに関係ないでしょう?私が誰を待っていようが、どうだっていいじゃない!」

「おまえのさっきの顔…」

「は?」

「学校の放課後に下駄箱んところで俺を待ってて俺が見つかんねーように隅から帰ろうとしたのにそれを見つけた時の顔と、そっくりだった…」

何その具体的な例え…っていうか!!

「そんな昔のこと、なんで今言われなきゃいけないわけ?だいたい、あんたは昔から卑怯だったのね!」

「何がだよ?」

「自分の事を待ってるって知ってるくせに、こそこそ帰るような真似して!」

ちらりと、尚がキョーコの後ろに目を向ける。

「いまかいまかと好きな人を待ついたいけな乙女心を弄ぶなんて、鬼か悪魔のすることよ!」

気にせず、尚を罵るキョーコだったが…


「お待たせ、最上さん」

声に、凍りつく。

何で…こんなに早く?!

っ!!タイミング、合わせすぎでしょう…!!


「ごめんね?弄んだつもりは全然ないんだけど」

驚いて振り向くと、予測通りの凄くいい笑顔だ。

「へっ?あっ…!違うんです、それは…」

「違う?撮りの順番が変わったから、最上さんが待ってると思って急いで来たんだけど…」

蓮は、キョーコの向こうにいる尚に目をやる。

「もしかして、遅いほうがよかった?」

「はー、おまえの待ち人は、ホント自意識過剰だな。なんで、自分の話だと思うかね」

蓮の視線を受けて、尚が嘲笑う。

その態度に、キョーコの切れっ放しの堪忍袋の緒が、ぶっつぶつの細切れと化していく。

っどうしてコイツはこうも好戦的なのよ…!

「っ祥子さん!」

「え?」

完全に傍観者を決め込んでいた祥子に、ぎゅっと尚を押しやって、キョーコはぎんっと目を光らせた。

「コレ、ちゃんと管理お願いします…暴言吐いたら叩きのめすくらいの厳しさが、アナタにはもっと必要なんじゃないでしょうか…!」

「え、ええ…暴言というよりは、なんだか仲よさそうに話してたから、邪魔しちゃいけないと思って」

「っそんなワケないじゃないですか…!」

「尚が楽しそうか、そうじゃないかで判断してるものだから…ごめんなさいね?」

奴基準?!それってマネージャーとしてどうなの?!

「楽しそうになんてしてねーだろ…」

すっかり不貞腐れた顔で、尚はそっぽを向く。

「とにかく!しつけはキチンとしておいてくださいよ?!」

「俺は、犬か猫か!」

「似たようなものじゃない!犬猫より始末悪いわよ、あんたなんて年中盛りが」
「最上さん」

尚にくってかかるキョーコを、蓮が押し止める。

「話があるんだろう?早くしないと、時間が無くなるよ」

「あ…は、はい…」

そうだった…敦賀さん、一旦抜けて来てくれたのに、私ったら…なんて失礼なことを!!

ただでさえ、こんな男かまってる余裕なんてないのに…!

「すみません…」

「いいよ、ここじゃ落ち着いて話もできないだろう?こっちおいで」

え…

すっと手を繋がれて、来た道を戻る…エレベーターに乗り、蓮の指が控え室のある階のボタンを押す。

不服そうな尚と困り顔の祥子の姿がちらと見えたが、扉が閉まるとそんな煩わしい様子も気にならなくなった。

気になるのは…

「あの…敦賀さん…?」

キョーコは蓮の表情をうかがう。

気にかかるのは、蓮が今何を思っているのか、だけだった。


拍手

PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

Trackback

この記事にトラックバックする:

Copyright © さかなのつぶやき。 : All rights reserved

「さかなのつぶやき。」に掲載されている文章・画像・その他すべての無断転載・無断掲載を禁止します。

TemplateDesign by KARMA7
忍者ブログ [PR]