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菫色の恋 16 忘レナイ意思








影が、重なる。

愛しみ、総てをを乞え、と。











「だ、大丈夫ですか?敦賀さん?」

控え室に着くなり、椅子に重く腰を下ろした蓮を気づかうキョーコだったが…さっきの余韻が残っているのか蓮から微妙に距離を置いて佇んでいる。

そんなキョーコに苦笑して、蓮は目頭を指で押さえ、溜息をつく。

「最近…何かに追い立てられるような焦燥感があるんだ」

「それが、忘れてしまっている事のせいなんだと思うんですが…どうなんでしょうか」

「そうなのかな…こうして思い出せないことが、最上さんに迷惑をかけているんだろう?事がはっきりするまで、俺は下手に動かない方がいいのかもしれない」

頭を抱えてしまった蓮を表情を窺おうと、キョーコは近寄っておずおずと宥める。

「つ…敦賀さん、そこまで深刻にならなくても…それに私、迷惑なんて思ってないですから…」

確かに、いきなりあんな接近をされるのは困るけど…敦賀さんにとってそんなに気に病むほどのことじゃないと思うし、むしろ申し訳ない気持ちがするんだもの…

「…いいの?」

「え?」

「もしかしたら、またさっきみたいに最上さんが嫌がるような事をするかもしれない…それでも、そう言えるのかな」

「だって…敦賀さんの意思じゃないなら、仕方ないじゃないですか」

敦賀さんは悪くない。

そう、きっと、あのちっさい男のせい!
どんな魔力使ってるのか知らないけど、敦賀さんにこんなに心労をかけさせるなんて…許せない!断じて許せないわ!!

怒りに震えるキョーコを、蓮は顔を斜めに傾けてのぞき込む。

「じゃあ…俺の、意思で起きていることだったら?」

「は?」

「もしも、俺がしたくてした演技だったって言ったら…どうする?」

キョーコと目線の高さを合わせ、問いかけてくる。伏せた睫の下、何かを挑むような色を含んだ瞳がキョーコを見つめている――

「………」

一瞬、息が止まるような錯覚に襲われる…心臓が、止まるんじゃないかと思うくらいに、その視線に射抜かれてしまう。けれど、相手の本意を建前のごとく思いつき、キョーコは目に力を込めて蓮を見据えた。

「っそれは困りますから…!!何も知らない後輩を翻弄して楽しむのは、くれぐれも自重して下さいよ?!」

いかにも迷惑そうに眉を顰めたキョーコに、蓮はクス、と笑った。

「だろうね」

深刻そうだった表情が少しくだけたように思え、キョーコの口元も、わずかに緩んだ。

――敦賀さん…そんな冗談がでるくらいには余裕が戻った、のかな…

冗談…本当にタチが悪い冗談よね――


「っとにかく、私…!こんな理不尽な事態に決して屈しません!断固闘いますから!敦賀さんも巻き込まれないように気をつけて下さいね?!」

「うん…そうだね」

柔らかい声で返事をした蓮の顔をどうしても直視できずに、キョーコはひたすらこれまでの経緯や不可解な出来事を捲くし立てるように語り続け、心の中の感情を誤魔化す様にして打ち消したのだった。









スタジオへ向かうという蓮と別れて、エレベーターを降りたキョーコは、キョロキョロと柱の影から辺りを窺い、見知った姿が無いのを確認する。

あいつ…さすがにもう帰ったわよね…帰るところだって言ってたし。
ここに残ってる必要はないはずだもの。
心配しなくってもまた会う可能性は低いわよね?

念には念をいれて確認を終えた後でロビーへと歩きだしたキョーコは、注意していなかった要注意人物の姿を見つけた。お互い、目が合った瞬間声を上げる。

「おヤっ」
「あっ!!」

出た!妖怪自称助監督!

どうやって捕まえようかしらね?!
掴んでもドロンと逃げられるし…捕獲網とか、持ってればよかった…っ

じりじりと距離を計るキョーコだったが、意外にも相手はにこにことキョーコに笑いかけながら近付いてくる。

「ね、彼、かなり役に便乗するケがあるみたいだネ!面白い!」

「便乗って…?!面白いって…ナニ?!どうして、みんな忘れてるわけ?!アンタ、いったいなんなの?!!」

キョーコがすごむと、無邪気な笑顔はあっという間に涙目になり怯えた表情に取り変わる。

「…っ…っそんなに怒らないで…ただ、すごく君に思い入れがあるんだなって。それに、君だって忘れてることたくさんあるじゃない?忘れる事はイイんだよ?」

「おっしゃるイミがまったくもってわからないんですけど…?それより質問に答えなさいよ?」

弱い子可愛い子ぶったってもう騙されないんだから!

「でも、あれは婚約者じゃないんだけどナ。ハヤク役に馴染んでもらわないと…!」

「だから、婚約者って…あっ、ちょっ!!」

「ごめんなさい、コレ以上は…言えない…!」

「っ!」

っやっぱり速い!逃げるのすっごく速い…!!

言うだけ言って、どろんって、結局いつものパターン…!欲しい情報何一つ置いていきゃしないのね!!

忘れる事がイイ?!どういうことか分からないけど、それはそっちの都合であって、その都合にどれだけ振り回されなきゃいけないの…!!

「~~~~~~っ腹立たしいぃ!」

――っいいわ!分かった!

忘れるのが都合いいって言うんなら、私は絶対に憶えていてやるんだから…!!

思い通りになんて、させるものですか―――!





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