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小さな体を、さらに小さく縮めて、いつもの河原で。 側にしゃがみこんで、肩に触れる。 きっとまた、母親のことで何かあったのだろう… 痛々しい思いでそう訊ねると、 …つるが、さんの…うそつき―――… キョーコが下宿先へ戻ってから数ヶ月。月日はさらさらと流れ、キョーコは順調に役者としての仕事をこなしていた。 「うん、あいつはちょっと社長に呼び出されてて。俺はちょっと、事務所に用があってさ」 「っそうだ!私っ…ずっと社さんに一言言っておきたかったことが…!」 「な…何?」 どよんと恨みがましい目でじっとりと見られ、その迫力に社はおののいた。 「坊のこと…写真撮られたときに絶対敦賀さんに言わないで欲しいっておねがいしてたじゃないですか!あっさりばらしちゃって!!あのあと、私がどんな恐怖に陥れられたか!!もう!頼みますよ?!」 「うん…ごめんねキョーコちゃん」 しゅんとして謝る社。 「口止めされてない事でも簡単にしゃべったりしちゃ駄目ですからね?!」 「はは…俺としてはかなり慎重に言ってきたつもりだけど…じれったくてつい。蓮のやつ、あんまり落ち込んでたからつい盛り上げてやろうと」 だって、キョーコちゃんの恋愛アンテナってなかなか受信されないみたいだから…ちょっとくらい波風立ててもいいかなと思ってさ… 「でも社さん…最近は前よりは変なからかいをしてこなくなりましたね」 「変なからかい…」 からかうまでもない…二人の甘々ぶりに当てられて何か言う気にもなれないくらいだ… 「からかわなくても、もう充分満足してるからさあ…」 ぼやいて、ふっと遠くを見つめる。 蓮が幸せそうなら、それでいいし。 その夜、蓮のマンションで、テーブルに夕食を並べながら、 「坊の仕事をばらしたり、コーンの正体は敦賀さんだって有り得ないような事言ってみたり…もうなんなんでしょうねあの人は」 ―――有り得ないような事…か。 くすりと笑う蓮を、キョーコはじろりと睨む。 「敦賀さん…コーンのこと、社さんに話したんですね?」 大切な、彼との記憶。 …何か…妙な違和感があるんだ… 「え?」 「コーンに」 「会えるなら…でも…彼が幸せにに暮らしているのか分かればそれでいいんです。それだけが、知りたい…」 「………」 蓮は、寂しげに視線を伏せたキョーコを見つめる。 だけど、彼女が信じるとは絶対に思えないから(なにせ、コーンをメルヘンの世界の住人だと信じているようだし)よっぽどのことがない限り本当のことがばれることなんてないだろう。 あの頃の自分は、もうここにはいないのだから―――
※「雲下の楼閣」の続編です※
あの子が、泣いている。
―――なにを、そんなに泣いているの?
顔を上げて、彼女は、幼くあどけない唇を動かした。
―――うそつき……
ドラマの収録も終わって、新しい仕事のオファーの打ち合わせにきていたキョーコは、事務所の入り口で社と鉢合わせたのだった。
「あっ、社さんだっ!なんだかお久しぶりですね…あれ?今日は敦賀さんは一緒じゃないんですか?」
首を傾げて訊ねるキョーコに、社はいつものように、にこやかに応える。
かなり反省してる様子だ。
仕事に恋愛を持ち込むようなやつじゃないけど、キョーコちゃんとのことがあってからなんか齢相応に生き生きしてる気がするし。
公私共にうまくいってるなら、マネージャーとしては言う事ないじゃないか。
キョーコは社との会話を、ふくれ顔で蓮に話したのだった。
「え…?」
「私っ社さんにコーンのこと必要以上に話したことなかったですから」
それを敦賀さんと私とを取り持つ手段に使おうとしたのが腹立たしかったし…敦賀さんが、コーンの事を社さんに話したなんて…
…ちょっとすっきりしない思いが残る。
いいえ…なんだろう…
もっと肝心なことに、気付けていないような…そんな感じ…
「…でも、会いたいんだろう?」
―――社さんにコーンの話をしたのは迂闊だったと思う。
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