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5 「あっ、ま、待ってモー子さん!あ、あのね、聞いてくれる?聞いて欲しいのっ、すっごく」 「………アンタ、誰にも言わないわね?」 「っ…ええっ?もしかしてそんな極秘な話なのっ?も、もちろん言わない!モー子さんの秘密は守り抜くわ!だから安心して相談してっ?私とモー子さんの仲じゃない!」 「その…実は…」 「っ言いかけてやめるなんて…!そんなのないわモー子さん!」 立ち尽くしていても仕方がない。キョーコはほとほとと、寂しげに歩きだした。 「お、どうしたんだ、そんなしおしおした顔して」
軽やかにステップを踏みながら、キョーコは事務所へと向かう。
―――私…コーンを探すのは絶対にあきらめない!!きっと見つけてみせる!
敦賀さんのくれた蒼い石が、きっと、コーンを見つける手助けをしてくれるに違いないから。
ああ、敦賀さんは、どうしてこんなにも私の気持ちを浮上させるのが上手なんだろう…!
「キョーコ!」
鼻歌混じりで上機嫌なキョーコは、呼び止める声にも気が付かない。
「何そんな浮かれてるんだか…キョーコ!」
「あっ…?」
肩を叩かれてキョーコは、ぱあああと表情を輝かせた。
「んもっモー子さんだっ!きゃあああああ、今日はなんて素晴らしい日なのー!!モー子さんにまで会えるなんてもぉ最高ーーっ」
「ちょっと…何よ、そのテンションの高さは。昨日の夜のあんたが嘘のようだわ…死にそうな声で電話に出るから何事かと思って事務所に来たついでに待ってたけど…なんかそんなに心配するほどじゃなかったみたいね」
待って損したわ、とばかりにあっさり帰ろうとする奏江をキョーコは慌てて引き止める。
自分を気にかけてくれた奏江に喜び勇みつつ、怒涛のように今朝の蓮とのやりとりを話しだす。大興奮のキョーコとは対照的に、奏江は醒めた様子でそれを聞いていたが、やがて面白くもないといった表情でそっぽを向いたのだった。
「ふーん…あっそ。ああ…なんかなおさらに自分が愚かに思えるわね」
「え?ど、どうして?」
落ち込んでいるだろうキョーコを励ます気満々で、何と言ってあげれば元気付けられるか、柄にも無く悩みに悩んで言葉を選び、準備して来たっていうのに。
敦賀さんがいれば、そんなにも簡単にいつものあんたに戻れるのなら…
「私なんかがいなくったって、あんたは立ち直れるのよね」
「な、何いってるの!そんなことないよモー子さん!昨日の電話で私がどれだけ力をもらったと思うの?!モー子さんの声のおかげで眠りにつけたようなものなのに!今だって嬉しくてしょーがなかったの誰かに話したくてしかたなかったのでもこんなこと話せるのモー子さんだけなのぉ!この絶妙なタイミングでこうして会えるなんて!やっぱり親友って偉大だわーー!」
「タイミングも何も、あんたが昨日事務所行くって言ってたじゃないのよ…いえ、私も今日用事があったからきたんだけど」
うざったいほど盛り上がり、うっとりして擦り寄るキョーコに、奏江は深い溜息をつく。キョーコがあまりにも舞い上がりすぎていてなんだか心配になってしまう。
「あんた…幸せ絶頂期もいいけど浮かれすぎて、そこからがつーんと落っこちたりしないように精々気をつけなさいよ。で、今日はなんで事務所へ来たのよ?」
昨日の電話ではそれすらも聞けないほど「コーン」とかいう石の事で鬱々としていたのだ。
―――なのにこの回復力ときたら…なんかむかむかしてくるのはどうしてかしら…
「あ、そうそう、新しいお仕事の話があるって。なんか電話ですごく興奮してたなあ、椹さん」
「へえ?」
「なんだかすんごいビッグニュースがあるって言ってたけど…椹さんはいつも私に仕事の話する時はいい話があるって言うから本当かどうかはわからないなあ」
「ふぅん…そう。あんたはいいわね、何もかも順調そうで」
「モー子さん?」
自らを憂うような声音に聞こえて、キョーコは奏江の異変を感じとる。
―――今日のモー子さん、様子がおかしい…?
なんだか妙に後ろ向きな発言が多いし。
「モー子さん?何かあったの?」
キョーコは探るように奏江を見つめた。
「ね、モー子さんの方はお仕事どうなの?私、自分のことばっかり話して…きっとモー子さんの方だってたくさん話あるのに」
―――私ったら一方的に話を聞いてもらうばかりで…コーンや敦賀さんのことで舞い上がっていたとはいえ、なんて自己中なんだろう…
「話なんて…無いわよそんなもん。アンタを心配する余裕があるくらいなのよ?この私が仕事で悩むなんて事ないわね」
「じゃあ…プライベートで?」
「ないない。前にも言ったでしょ、今はそんな事にかまける気ないの」
「じゃあ、いったい…」
「しつこいわね!何も話すことなんてないって言ってるでしょ!?」
「っ…私達…親友でしょぉ…なんでも話して欲しいのに…っ」
「う…っ」
涙目で穴があきそうなほどに、ぢっ…と見つめられて、奏江は居心地が悪そうに顔をそらしていたが、やがて意を決したようにキョーコを見た。
「うん!なに!?」
耳を大きくして頷くキョーコ。
けれども、気後れしたように奏江は視線を彷徨わせ…
「あ、やっぱり、いい…」
告げるのをやめてしまった。肩透かしをされて、キョーコは奏江にすがりつく。
「あ、あんたがあんまりにも気負って聞こうとするからなんだか話す気がそがれたのよ!」
「わ、私のせいだっていうのぉ?」
「っそうじゃなくて…もう暫くしたら、ちゃんと話すから」
「…モー子さん?」
「あーっもう!悪かったわよ、思わせぶりな事して。別になんにもないのよ。あんたがあまりにも鬱陶しい長話するから憂さ晴らしにからかってやろうと思っただけ!そんな顔しないでよね!」
「………うん…」
一瞬見せた深刻そうな様子が気にかかったが、それ以上追求しづらくてキョーコは知りたい気持ちを押さえて頷いた。
「私これからドラマの撮りがあるから。じゃ!」
「あっ…モー子さん…」
逃げるようにして帰っていった奏江を止める事も出来ず見送るしかなかった。キョーコの胸を不安が占めていく。
―――私にも話せないような事って、いったいなんなの?モー子さん…
―――モー子さん、結局少しも話してくれなかった…
ああ、モー子さんを悩ませているのはいったいなんなの?
私は、なんの力にもなれないの…?
「うっ…ぐしゅ、椹さぁああああん」
「おおおおおお?な、何泣いてるんだよ、おいおい…?」
「い、今、そこで…モー子さんに会って…」
「あ。もしかして…あの話を聞いたのか?」
「……え?」
「仕方ないんだよ。彼女がそう決めたんならさぁ…」
「な、なんの、話ですかっ?」
「え……」
キョーコの剣幕に、椹の顔がひきつる。
「それ、どういうことです?モー子さんは、一体何を?!」
「えっ、き、聞いてなかったのか…う、わ、まいったなぁ…」
迫るキョーコにおののき、頭を掻く椹。キョーコの追求が、とんでもなくしつこい事を椹はよく知っていた。
『椹さぁああああん?知っているのねえええぇ?お願ぁあああい教えて欲しいのおおぉ…』
「っ…ひぃっ!!!!」
この日のキョーコも、怨念こもった押しの強さを余すことなく発揮して椹に聞き出すまではとまとわり付き…
奏江がLME芸能プロダクションを辞めるかもしれないという、キョーコにとっては最大級に衝撃的な話を聞き出したのだった―――
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