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7 さっきと同じ、敦賀さんの綺麗で整った唇がわずかに離れ、角度を変えてもう一度、重なる。 「っ、敦賀さ…ん」 頼りなげにこちらを見上げ、まるで幼い頃のように感情を曝ける。 腕に力を込めれば、簡単に封じ込められる柔らかな体。 ―――止められない… 「……ふ…っ」 「っ…つるが、さん…?」 ―――抱き潰してしまいそうだ… 「最上さん…瞳孔、開いてるし…そんな生気抜けるほど、嫌だったんだ?」 …やはり、いつものごとく彼女だった。
肩を滑り落ちる手のひらが、背中へとまわされる。
油断してわずかに開いていた唇を、逃さないみたいな、深い口付け。
激しい動悸の中、キョーコは慌てる。
―――この間も、こんなキスで…
「…………っ」
背筋を痺れさせる低い囁きと、優しいキスが
脳みそを沸騰させて、考える力を奪ってしまって…
ソファに押し当てられるようにして被さっている体温。熱い指先に手首を掴まれ、もう一方の腕は背中にまわされたまま。気が付けば、身動きが取れなくなっていた。
覆い被さる体の重みと、敦賀さんの香り。
呼吸が苦しいのは、強く抱きしめられているせいだけじゃない。
胸が泣きたいくらいに熱くて、どうしていいか分からなくなる。
唇と吐息の隙間から名前を呼ぶと、瞼を上げて私を見る敦賀さんの表情に、息が止まる。
―――見たことのない…いつもの、『夜の帝王』の敦賀さんとも、違う…
もっと切なくて、感情の迸るような、熱を含んで揺れる瞳がそこにあった。
―――この間から無防備な素振りを見せる。
触れることの出来るすぐそばに彼女を感じていると、誘っているのかと思わずにはいられない。
彼女にまったくそんなつもりはないのは、よく分かっている。
それは、願望でしかない。
自分でも、充分、理解しているくせに―――
ほんの少し、彼女に触れるだけで、その理性は霧散する。
髪の香りも、小さく震える肩も、すべて、気がふれそうなほど、愛しい。
「…っ」
今までのように、彼女を気遣うキスが、できない―――…
かすかに彼女の喉から、声が漏れるのが聞えた瞬間に。その髪に指を差し入れ、堰を切ったように口付けていた。
甘い感触が、もっと彼女に触れたいという願いを増長させていく。
どれだけ唇を重ねても、尽きる事がない愛おしさを持て余して、柔らかく丸みを帯びた顎のラインを唇でなぞると、彼女はぎゅっと目を閉じて、身を縮めるようにして震える。
彼女が怯えているのが、分かる。
それなのに。
そんな仕草さえも、今は、箍を外す誘惑だった。
普段、理性で押さえつけていた欲求は日ごとに膨らんでいき、もう抑制する自信が、ない。
「…どうしたら、いい?」
頬を寄せて、耳元で囁く。
「…っ」
「俺は…君をこのまま…」
その先を、言葉にできそうになかった。
苦しいほどの想いで、彼女の瞳を見つめ…
…その眼を見て、やむなく大きく息をついて体を起こす。
次いで、彼女の背中をそっと起こしてやり髪をくしゃくしゃと撫であげて、浅ましい感情を無理矢理に体の隅へ追いやった。
抑制できない自分を止める事ができるのは…
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