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「ああ、何か、心がすっきり晴れ渡るような良いコト、ないかしらね…っ」
昨日は変態男に心を乱されて気力を浪費し散々だった。
その上、一番肝心な石の事を聞きそびれてしまった。
嫌だわ…気色悪いから、もう寄り付きたくもないのに…
メールひとつすらする気になれない。
ほうっておきたいのに、石の行方を心配すると関連してショータローの顔がちらついて…
いやぁあああ…もう、考えたくないぃ
でも、私のラブリーブルー(命名)を探す手がかりがもう他にないんだもの…!
憂鬱な気持ちを引きずりながら、向かった先は社長室。久しぶりな社長直々の呼び出しだ。
社長室まで呼ばれて、そこで良い話を聞いた例は今までの経験上あまり無い。
今回も驚き叫ばずにはいられないような話だろうと覚悟して行ってみれば。
「え!?ラブミー部卒業?ほ、本当ですか?!」
思いもかけない提案がキョーコを待っていたのだった。
「ああ。ずっとラブミー部所属でいたいわけじゃあるまい?その肩書きもそろそろ卒業してもいいころじゃないかと思うんだが、どうだ?」
最近ではラブミー部の仕事も少なくなってそこに所属している身であることも忘れつつあったが、それでも卒業できるとあれば嬉しかった。
―――それは、自分が成長したって…社長に認められたって、そう思っていいの…?
「そのかわりっ、条件がある」
「条件?」
「そもそもラブミー部に所属することになった原因は分かっているな?おまえが、ちゃんと人を愛し愛を持って仕事に接する事が出来るようになったなら、卒業!」
「はあ…で、具体的にはいったいどのような条件なんですか?」
困惑するキョーコに、宝田は、にっと嬉しげに笑みを浮かべ、高らかに言い放った。
「よって、条件は愛の証のひとつ!ハッピーマリッジ!だ!」
「は、はああ?!」
「簡単だろ?」
「ハ、ハッピー…?結婚できたら、卒業?!それは…結局私に一生ラブミー部でいろと、そういうことですね?!」
なんだ、ぬか喜びしちゃった。
「なんでそうなる。そんな条件今ならわけねーだろう?」
「無理です!出来るわけが無いじゃないですか!」
「ふーんん?そうだな、じゃあ、ハードルをちょっと下げてやろう。相手に愛されてプロポーズさせられたら、卒業、とか?」
「社長…それ、同じ事ですから…」
―――だいたい、そんなことを、私に言う人なんて…
即座に頭に浮かんだ人物をあわてて消し去る。
ぶるぶるぶる…いっ、いやああああ…無い無い無いわそれは、無いぃ!
「あ、この条件を相手に言ったらアウトだぞ、その場限りの嘘のプロポーズももちろん無効だからな」
「もう、いいです…私は一生、ラブミー部員でもなんら問題はありません…!」
「何言ってる、やる前から諦めるんじゃない。む、もしかして自信が無いのか?なんなら俺がプロデュースしてやってもいいが」
「いいえ!ご遠慮しておきます!」
いかなる相手だろうと、社長のプロデュースだけは勘弁して欲しいものだわ…!
「しかしなぁ…おまえが今、頭に思い浮かべてるだろう相手」
「え…」
「そいつにベッタベタに惚れられてんじゃねーのか。おまえだってそういうことを考えないこともないだろうに」
「ああありません、どれもこれもありえません!」
「…何故、そんな戦慄に身震いしている…?」
―――もしや、この子、実はそんなにまでも蓮を嫌ってるのか…?
不安要素はあれど、蓮のあの腑抜けた様子を見てとるに、てっきり順調にいってるものだと思っていたが…
息をのんで、キョーコに訊ねてみる。
「…結婚したら、あいつと一生涯一緒に過ごせるんだぞ?二人の愛の結晶である愛しいわが子もその手に抱くことができるんだぞ?嬉しくないのか?」
「っっっ…愛の結晶っ…」
気を失いかけたが、かろうじて意識をつかまえ、キョーコは暗い声でうめいた。
「…社長は…あの最低さを知らないんです…」
「最低…蓮が最低…?あいつ、おまえに何したんだ?」
「へ?………あっ!ち、違うんです!敦賀さんは何も関係ないんです!」
関係、ない?
―――ん?
まさか…!この子のこの様子からして…
頭に浮かんだのは、蓮じゃなかったのか…っ!?
「…何か、あったのか?」
「何もありえません」
キョーコは即答して、姿勢を正す。
「ラブミー部卒業の件は、もう少し考えさせてください…我がままかもしれないですが、私は、ラブミー部のままでいさせて頂けるのなら、それでも、いいと思っているので…」
聞きたい事は山ほどあったが、宝田は不満げに頷いた。
「ああ…分かった」
―――少し、はやまったか…?だが、このところ明らかにキョーコにも蓮にも変化がみてとれたし、そう無理な条件ではないと…むしろ二人の背中を後押ししてやることができると思っていたのだが―――…
蓮には前々から、キョーコのラブミー部卒業はおまえに懸かってるとハッパをかけてきていたが結婚話まで持ち出してやってもまだ、「関係ない」とか言われてるようでは…
「はぁあああ…なあぁーにやってんだか、あいつは」
キョーコが退室したあとで頭を抱える。
―――おそらくは…キョーコに念押ししたあの映画に関係あるのだろう…
決着にちょうどいいだろうとさえ思っていたのに…蓮のやつ…勝試合をフイにする気か?!
他人がどうできるものでもない。だが、ここまでくると、見守るしかないとは性に合わない。
「さて、どうするかな…」
落ち着かない気持ちにせっつかれ、次第に早足になりながら、キョーコは社長室でのやり取りを思い返す。
…自分の脳細胞の作りにショックをうけずにはいられなかった。
―――あのとき。思い浮かべるなら、敦賀さんがよかった。
それなのに。
「ついてきてくれないか」と。
上京するときの…プロポーズのように思えた、あの言葉と、あいつの表情―――
「嫌…」
消し去りたくて、携帯電話を取り出す。
「敦賀さん…」
―――会いたい。
こんなにもショータローの記憶が根深く蔓延っているなんて。
そんなの、認めるわけにはいかない。
早く、敦賀さんに会って、安心したかった。
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