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胸をバックバク鼓動させて聞いた返事は、予想していたものとさして違わなかった。
―――きっと、あっさりふられるんだろうってわかってたけど!
わかってるさ!分かってるけど―――…!
その場から逃げ出したい衝動に駆られるが、ぐっと堪えて光はキョーコの顔を見つめた。
途端、頬を染め、切なげに目をふせる彼女にドキンとする。
―――ああ…初めて見る。こんな表情も、するんだぁ、キョーコちゃん…
ほわーっと思わず見とれてしまう自分に気が付き、ぶるると頭を振りたくなる。
―――もう!馬鹿だな…オレ…!ふられるその時まで、彼女に見とれてるなんて…!
馬鹿!馬鹿!光の大馬鹿!!ほら、キョーコちゃん困ってるじゃないか!
キョーコちゃんがこれ以上嫌な思いしないように、ちゃんとこの会話を終わらせなきゃ駄目だろ!
「ごめんね、こんな事突然言って…困らせちゃったよね」
「い、いえ…びっくりはしましたけど…っ私なんかにそんな…あ、ありがとうございます。で、でも…その、私」
「あ、うん。あの、あの企画の子ってキョーコちゃんなんだろうなとは思ってたけど…っ言わずにはいれなかったんだ」
「あの企画?」
「うん、いいんだ!きちんと気持ちを伝えて、すっきりしたかっただけだから!」
「???」
「ありがとう、聞いてくれただけでも、俺超嬉しかったし!これからもいままでと同じように接してくれるよね?」
「っそれは、勿論です!」
へへ、と笑う光を見て、ほっとした表情でキョーコもほんのり微笑んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その直後だった。
「キョーコちゃーん」
社さんの声がして、振り向いて…うっすらと笑みを浮かべた敦賀さんが近付いてくるのに気が付いたのは。
追求から逃れられず正直に話したら、意外とあっさり話は流してもらえたのだけど…
逆にすごく気になる話を持ってこられて、その上なんでかわからないまま笑われてしまった。
な、なに…?!
そういえば、光さんも、企画がどうとか言ってた…
…この間から何かおかしい。
キョーコはうーんと空を仰いで考え込む。
自分だけが知らされていない、自分自身に関することがあるみたい…
聞き返しても、みんな一様にはっとして誤魔化したり口を閉ざしてしまうのだ。
敦賀さんや、モー子さんまでも…
なんか…あやしい…でも、いったいナニがあるって言うの…?
その謎は、ほんの数日後の「ラブミー部員」としての仕事で一遍が見られることとなる。
現地の地図を渡され、到着するなり指示されるままラブミーユニフォームを着たところで。
「お姉さま!さあ、早く早くーー!」
「ま、まりあちゃん?!え…どうしてここに?」
「まあっ、私がお姉さまへのお祝いの場に参加しないわけがないでしょう?!ほら、みんな待ってるわ」
さあさあ、早く早く、と周囲に追い立てられるように舞台に押し出されてしまったのだった。
キョーコが姿を現した途端、会場からは、歓声が沸きあがる。
パーティ会場とぼしき場所に、ドレスアップした人々。彼らは一様に祝福の拍手でもってキョーコを迎えたのだった。
キョーコは状況を把握しようもなく、呆然と立ちすくんだ。
―――これなに?な…なんのドッキリ…?
思わずおろおろキョロキョロして、後ろを向いたときに目にはいった、光り輝くタイトルにさらに仰天する。
「愛のラブミー企画!私を愛してくれるハニーがここに誕生!!」
―――って、っ…?なにこれ…―――!!!!?
瞬時にいろんな考えがキョーコの頭を交差する。
たっ、タイトル、恥ずかしい…!
みんなが隠してたことってもしやコレ…!?
え、で、何が起きるの?どういう意図で?!
黒幕!この黒幕はどこ?!
ぐるっと会場内を見渡す。
そう探さなくても、派手な衣装のおかげですぐにその人は見つけられた。
―――い、いた…!
キョーコは舞台から飛び降りると、ぐいと詰め寄った。
「社長っ…私に内緒で、こんなこと…!」
「おや、言わなかったかな」
「聞いてません!」
「趣旨は?!愛のラブミー企画って…」
「まあ、要するにラブミー部の卒業式だな」
「!卒業!?」
「で、卒業にあたっては、マネージャーをつけないとならんだろう?」
宝田が壇上に目配せをすると、さっと数人の男性と女性をおりまぜた統一感のない人々が舞台に並んだ。
「我がラブミー部員の為に選りすぐったマネージャー候補達だ。一ヶ月づつ試用期間を与えて最も適任だと思われる人材に任せる事になる」
「マネージャー候補なんて隠れて…いつのまにそろえたんですか…!?」
「いや?全然隠してなかったぞ?番組のテロップで流したり街頭モニターで募集したりかなり露出して募集してたと思うが?とうに受け入れてるのかと思ってたのに…なんだ、知らなかったのか」
―――大々的に募集していた…?
衝撃を隠せないキョーコに、にこにこと上機嫌の宝田。
「まずはこいつからどうだ?」
そう言って宝田が肩を抱いて連れて来たのは、見るからに誠実そうな好青年。
あ、れ?どこかで、見たような…
「あ…この間、迎えに来た…」
「はい。よく覚えてらっしゃいましたね」
いえ、あんな衝撃的な連れ去られ方されたら…イヤでも忘れないと思う…
企画の意図をだいたい理解して、どうっと力が抜けてしまう。
「…こんなことしなくちゃ、卒業できないんでしょうか…本命いるってご存知でしょうしこんなイベントしなくてもいいんじゃ?!それにこの前も言いましたけど、卒業できなくても私は…」
「ほほぅ?!本命がいるのか?」
「…ちょっと…とぼけないで下さい!知ってるんですよ!社長が影であっちこっちに火種をばら撒いてたのを…!」
「火種…?うん?何のことだ?年のせいか忘れっぽくてな?」
「…どうやったって老化現象を理由にとぼけるのは無理があります!」
さらに不満をぶつけようとしたキョーコだったが、会場内が沸いたのに気をとられ、人々の目線の先にある舞台の方を見た。
「お?来たか!やっと主役が揃ったな!」
「え!」
顔を真っ赤にして、キョーコと同じように舞台に押し出されてきたその人。
身に纏っているのは、キョーコと同じ、ラブミーユニフォーム…
「モ、モー子さん!」
「え…ええ?…えええ?!ちょっと!何なのよ、これーーーーー!!」
「ど、どういう事?!モー子さん?!」
驚いて舞台へ駆け寄るキョーコ。
「し、知らないわよ!私、キョーコに祝辞を読む役で今日ここに呼ばれたはずなのよ?!」
なのに二度と袖を通したくなかったこのどピンクつなぎを着せられて…!
「!?なんで…モー子さんは…だって…」
ああん?と宝田がふてくされ顔になる。
「彼女の引き抜きの話か?うちがそうそう簡単に初代ラブミー部卒業生を手放すはずがないだろう?だいたい、卒業したといっても、ラブミー部員であったことには変わりない。契約は自動更新だ。よそになんか任せらんだろうが。責任を持って卒業後もうちで面倒みるに決まってるじゃないか、当然だろう?」
「???」
きつねにつままれた様子の奏江に、キョーコはキラキラした瞳でにじり寄る。
「ってことは…!モー子さん、事務所辞めないのよね?!これからも一緒の事務所で親友度を高めあえるのよね?!」
「…っ!こ、これ以上高めてどうしようっての?!」
「あっ、親友って認めてくれたっ?」
「もーーーー!分かったわよ!私とアンタは愛と友情のラブミー部卒業生!それで満足?!」
「モー子さぁん…!」
「ま、二人まとめての企画にしようと思いついたのはつい最近だがな。そういうわけで、君達にはマネージャーがつくことになるんだが、ここからが要だからな」
「は?」
「え?」
「候補の彼らにはそれぞれ任務が与えられる。それをクリアできたら、マネージャーに正規採用することになる」
「はあ」
「そうですか…」
キョーコはひそひそと奏江に耳打ちする。
「任務とか…大げさよね。普通にマネージャー業務こなせばいいんじゃ?」
「…馬鹿ね、社長が考えた任務が普通なわけないでしょ」
はっ…そうか…!そうだったわ…!!
「見なさいよ、あの楽しそうな顔…私達、どんな目にあわされるのかしらね…」
そういうわけで、それぞれにあてがわれたマネージャー候補。
「よろしく」
にこにこと握手を求められて、キョーコはあまりの展開の速さについていけず
こわばった顔のまま差し出された手に応じた。
「は…はあ」
そんなキョーコに彼はにこ、と笑って見せた。
「大丈夫です。そんな不安そうにしなくても、ちゃんとサポートしますから」
「いえ…不安というか…」
この突拍子も無い事態に頭が付いていかないだけで…
「とりあえず、女優にスキャンダルはご法度でしょうからそのへんの管理をきちんとさせてもらいます」
「は?スキャンダルって…?」
「彼にこれから一ヶ月試用期間としてマネージャーについてもらう。ふふん、恋は障害があってこそ燃えるもんだろ?」
は…?マネージャーが恋の障害になる?
「ああ、試用期間中に、任務が遂行できなかったらその時点でマネージャー失格とみなすからな?そこのところ、君達も理解しておいてくれ」
「…何か、さっぱり理解できませんが…結局クリアすべき任務って何ですか」
「ふ、そこは、秘・密だ」
っ…
どうしちゃったんですか…社長…!?
なんか…いつも以上におかしい…!?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おかしい!ぜーーーーったい、おかしい!!」
「…どうしたんですか」
仕事帰りの車の中、社が力いっぱい猜疑心を叫ぶ。
もう聞くことに慣れてしまった愚痴のような心配事をBGMに、蓮はハンドルを握る。
「俺はさ、キョーコちゃんが無茶して過密スケジュールをこなしちゃうのを防ぐためのマネージャーだって認識してたんだけど!これじゃ聞いてたのと違っがあああう!」
ぷーーーっっと膨れっ面をする社。
「なあ?キョーコちゃんのマネージャーってさあ…蓮のこと、目の敵にしてないか?仕事熱心もあそこまでいくとなんかさあ」
思い当たった考えに、はうっと頬を両手で押さえて青褪める。
「っもしかして、あのマネージャー、キョーコちゃんのこと…」
「…」
蓮は呆れと諦めの入り混じった視線で、一人騒がしい社を見る。
すべて宝田の仕組んだ事であって、社が心配するようなことはまず無い。
けしかけるのが好きなんだ。あの人は。
そうやっておいて、あとの結果は当人次第なんだから…迷惑な話だ。
「ま、きっかけは大事だな」
「え、何?何一人で納得してんだよ?!」
「あんまり最上さんの事で色々言っていると、社さんも社長のゲーム参戦者リストに載せられますよ」
「えー!!それは絶対御免こうむりたいよ!」
「…」
「い、いや、キョーコちゃんが嫌って言ってるんじゃなくて…」
「分かってますよ?」
にっこり、と蓮が笑う。
―――あ、コイツ今、なんかロクでもない事考えてるぞ、きっと…
社は眼鏡の奥で、じとっとそんな蓮を見た。
「なんでもいいけどさー。そうやって俺にいつも本当の事言わないんだよな!」
冷たいよな、みずくさいよな、とぶちぶち言う社をなだめつつ、今晩、行くべき場所へ向かって蓮は車を走らせたのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
は、
ハードすぎる…
何が辛いって、日々の送り迎えが…!
仕事が終わると半ば強制的に車に乗せられ、専用マンションへ返されてしまう。
敦賀さんのマンションへ出かけようと自宅を一歩でようものなら、即座に携帯が鳴り響くのだ。
『明日も早いですから、休息はしっかりとって下さい。睡眠は女優の命ですから。出かけるなんてもってのほかですよ、ましてゴシップネタになりそうな行動なんて謹んで貰わなくては』
いやああああああ…!いったい、どこから見てるの…?!
プライベートまで管理されるなんて、聞いてない…!
―――このままじゃ…私…
っ確実に、精神的栄養不足で干上がってしまうと思う―――…!
『マスコミなんて、もうさんざん勝手な報道を連ねているし、今さら気にかける必要もないんじゃ?!』
って反論したら、
『だからこそです。とにかくもうそこから出かけないようにして下さい。出かけたら、大変な事になりますよ?』
って有無を言わさずマンションに押し込まれて。
そうしてマネージャーは何かがあった時は何時でも飛んで来れる様な体制で控えているらしく。
この日も追い立てられるようにしてマンションに帰ってきたキョーコは玄関に入るなり、ドアにもたれて息を吐いた。
ああ…一ヶ月、これが続くのかしら…
「敦賀さん…」
思わず呟くと。
「うん?」
「―――え?今…声が?げ、幻聴?」
「え?声?別に聞えなかったけど」
顔を上げる。目が零れ落ちるかと思うほどに見開いて、信じがたい存在に叫ぶ。
「つっ…敦賀さん!?何してるんです…!?どうしてここに…っ」
「しっ」
口元を大きな手のひらで塞がれても、キョーコはその人を見つめたまま見開いた目を閉じる事ができないでいた。
―――ほ、本物…?ホントに敦賀さんだ?!
信じられない思いのまま、その胸に抱きしめられる。
―――敦賀さん…
ああ、すごく久しぶりだ…こんなに近くに敦賀さんを感じるのって…
玄関に放り出したままのカバンから、キョーコの携帯電話が数秒鳴って止まった。
メールかな…たぶんマネージャーだろうな…
「さっきの声が、聞えたのかもね?」
「え…じゃ、じゃあ今のメール、これから部屋に来るとかそういう内容かも」
慌ててメールの内容を確認しようとするキョーコの行動を封じるように、抱きしめていた蓮の腕がさらに体を引き寄せた。
「今、俺を見つけたら、彼はどんな顔するだろうね?」
密やかな囁きをキョーコの耳に滑り込ませて、蓮は当たり前のように唇を寄せる。
「っ…」
目を閉じると、口付けが蕩けるように深くなる。
キョーコは溺れるようにそれを受け入れながら、そうして伝わる想いに胸を震わせた。
―――会いたかった…
そんな気持ちを台無しにする、がんがんと扉を叩く音。
「キョーコさん?!キョーコさんー?!何か叫び声が聞えましたが…どうしたんです?!メールにも返事ないし…何かあったのですか?」
「…っ」
来るの早っ…
こんな所を見つかったら大変…と危ぶみながらも唇は離れていかなかった。
逆らう事もできず包み込まれたまま、深くて甘い感覚にたゆたい身をゆだねていると。
バン!と扉が開け放たれた。
「!!」
う、うわっ…!ほ、ホントに見つかった―――!!?
いったい、どうなってるのよ?この部屋の管理体制は?!
息をのむキョーコから悠然とした動きで濡れた唇を離し、蓮は静かに扉を開けた相手を見る。
誰が見てもぞくりとするような色気が、無粋な闖入者に有無を言わせない雰囲気を放ち―――
「・・・・」
パタン。
数秒と空けず即座に、彼は落胆の色を見せて扉を閉めたのだった。
ええええええ!し、閉めたーーーー!?
あんなに口うるさかったくせにー?!
そのまま何も言わず扉を閉めて帰っていったことに、キョーコは驚く。あっ…!ああ!そうか!任務失敗?!になるの?もしかしてこれ?!
「つ、敦賀さん…?」
「ん?」
「なんか、っ面白がってませんか…っ」
「うん、こういう趣向も、面白いかもしれない」
「!?っ…ちょ、ちょっと待ってください?だいたい、どどど、どうやって、ここに?」
「ああ、簡単だよ?機械クラッシャーの手を借りればオートロックなんて」
社さん…恐ろしい人…!
どこまでも優秀なマネージャなの…って、そうじゃなくて…!
それ、空き巣行為ですから…!
さて、いともたやすく任務終了となった彼の変わりに、今度はどんなマネージャーがどんな任務を課せられるのか…キョーコの心労はもう暫く続きそうだった。
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