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「最上さん…そろそろ泣き止んでくれないか…」 「ふ…ううううっ…っ…」 「せめて…どうして泣いているのかだけでも教えてくれないかな」 泣き出した彼女が何も語ろうとしないのは、不破への感情を肯定しているかのようにも思えてきて、胸の底がじりじりとしてくる。 「…っ敦賀さん…に…っ」 そこまで言っただけで、再びぶわっと涙を溢れさせ、声を詰まらせてまた泣き出してしまうのだった。 不破に対してあまりにも迂闊な彼女に、少しばかり灸を据えようと思っただけで…まだ本題にも入っていないのに。 泣かれてしまうと、それ以上は責めずらい… 仕方なく、はねのけられるのを覚悟で、蓮はそうっとキョーコを抱き寄せる。 すっぽりと胸の中に納まった彼女は抵抗する様子も無く、少しずつしゃくりあげるのを止めていき、落ち着きを取り戻していった。 「…敦賀さんにだけは…疑われたくなかった……」 疑われるような事をしなければいいじゃないか、と反論しそうになるのを蓮はかろうじて堪えた。 「…疑っている、わけじゃないよ。ただ、もう少し慎重になれないのかと」 「そもそも…そこで君が責任を感じる事自体…」 あいつと、根底に深いつながりがあるからなんじゃないのか? ―――だが、そうはっきりと言うのは、どうしても憚られた。 なんだかんだ言いつつも…やはり不破のことがひっかかっている自分に気が付いて、蓮は気を静めようと自らの額に手を触れる。 「いや…もう、いい」 「良くありません…!私は!」 「分かってるって、言ったろう…?それは、もういいから。それ以外で、俺は君に聞きたいことがある」 「なんですか…」 もっと弁解したそうにしながらも口をすぼめてるキョーコに、蓮は本題を切り出す。 「俺…社さんからすごく面白い話を聞いたんだ…聞きたい?」 優しげな蓮の声に気を抜き、思わず顔をあげたキョーコは、ぴしっと凍り固まった。 隊長ーーーー!!!稀にない好波長! キョーコの周りには、久方ぶりに怒りの波長を感知して怨キョ達が大量に出現している。歓喜のあまり騒ぎ立てて浮遊する彼女達とは対照的に、本体キョーコは、顔面蒼白でかろうじて意識を保っているばかりだ。 「…お、面白い話とは、何でしょう……か…っ」 ―――はくっ…目で、人を殺せるとしたら… こんな視線かも、しれな…い… くすくす…と堪えきれずに笑う蓮に、つられるようにキョーコは引きつった笑顔を作る。 「…っ」 「言っても…いい?」 「…ど…どう、ぞ……っ」 虫の息状態のキョーコに、蓮はきらりと瞳を光らせ、微笑みかける。 「な、何のことで…?」 分からないながらも自衛本能でとぼける体勢に入っていたキョーコへ、蓮がにこやかに差し出して見せたのは自らの携帯だった。 「これだよ」 パクンと開き、キョーコの目の前に示したそこには―――… 見間違いようも無い、あの個性的なニワトリ…!! これは…この変なポーズを決めているこのトリは… まさしく、坊!!!(That is me!!) 衝撃のあまり硬直するキョーコに、蓮は口元に微笑み、目元に凄味をきかせて更に問いかける。 「いつからいつまで、この仕事をやっていたのかな」 「っ…う…っ」 「それが知りたくて知りたくて、電話する間も惜しいくらいに急いで君のところへ帰ってきたんだけど」 「それは…っ」 「まあ…会うのは久しぶりだから喜んで迎えてくれるかと思っていたのに…肝心の君は弁当作りに熱中しているし」 「…っ…ごっ」 「そんな部屋の隅っこでがたがた震えて俺から逃げているしで…俺としては………」 じりじりと追いやられ、キョーコの背中は壁にへばり付く。 「……かなり面白くないかな」 「ひ…っ…ごめんなさい悪気はなかったんです…っ」 腰を抜かして震え上がるキョーコの眼前に、蓮は顔を近づける。 「君はきちんと俺に説明をする義務がある。俺も君にお礼を言わないといけないしね」 「お、お礼…っ?」 ―――どうして?私がお、お詫びするんじゃ…?! 蓮は、不可思議な顔をしているキョーコの手をとる。 「そう、お礼だよ。だから、こっちおいで?」 腑抜けた手足を支えられ、キョーコはゆっくり立ち上がった。 「さて」 「まずは君が俺にこれまで指導してくれたことからお礼を言おうかな」 「…っ!」 「日本語レクチャーからあげく恋愛相談まで…本当に助かったよ」 そうだ…思えば…坊の衣を借りて、さんざん偉そうな口をきいてきたわ…! 「も、申し訳」 蓮の指先が、さらり、とキョーコの髪を撫で上げる。 「…っ」 「っ…それは…っな、なんと申し上げたらよいか…っ」 そのまま頬に触れるかに思えた蓮の手は、すっと、キョーコのもとから離れていった。 「だけど…俺が悩んでるのを、君は素知らぬふりで聞いていたんだな…本気で俺の相談に乗ってくれていたんじゃ、なかったんだ」 ズキリとキョーコの心が軋む。 「あ、あの時は、自分の事言われてるなんて思いもしなくて…」 「……嘘だね?」 「本当です!分かる前に…い、言う前に辞めてしまったから…っ」 「あれ?辞めたのはつい最近だって社さんに聞いたけど?」 「…っ」 ―――あああ…どこからが本当かも自分でもわからなくなってきてしまったみたい…敦賀さんも自分も誤魔化しきれない… 「だ、だって…」 口を閉ざせば、沈黙が重くのしかかる気がした。 「必死、だったんです。敦賀さんを大切に想っていたから、敦賀さんの想う相手が誰なのか気が付くまで、本当に敦賀さんの恋が成就する事を願って…坊でいれば、力になれると信じていたから…」 「じゃあ…気が付いてから、俺を遠ざけるような事を言ったのは何故? 「…っ!違います…!自分でもよく、わからないんです…ただ、すごく、怖かった…敦賀さんに正体を知られたら…きっと、嫌われるって思って…だから…」 「っ」 ―――だ、駄目…っ! ―――何を言ったらいいんだろう…! 「ど………どうしたら、許してもらえますか…?つ、敦賀さんの、お気の済む様に…何でも言って、下さい…」 「何でも…?」 彼から発せられる異質な空気に、顔が、体が、こわばる。 ―――な…何…?こ、怖い…っ 「じゃあ…約束…」 「…え?] 「―――君とした約束を、破るから」
9
「うっ…うえっ…く…」
それで涙の訳をせっつくのだけれども…
シャツを涙でぬらしながら、不安定な涙声で呟く。
「好きでやってるわけじゃ、ないんです。祥子さんのためで」
「どうして祥子さんのために、君が動く必要がある?」
「だって!あんまりにも気の毒で!」
「あんな奴のせいで大変な思いしてるから?」
「……っそれは…」
計測不可能!計測不可能な最大値であります!!
「ああ…本当に可笑しな話なんだ…」
彼女に一刻も早く、聞きたかった事。
「君が…ニワトリだったっていう、話」
何の事を言われたのか、キョーコにはすぐに分からなかった。
―――んなっ…!ま、待ちうけ画像に!!
追い詰めきって、ばんっと音を立てて壁に手をついた蓮は、凍るような眼差しでキョーコを見下ろした。
言われるがままにするしか、今のキョーコに選択肢はなかったのだ。
自室の扉を閉め、蓮は一見爽やかにキョーコを振り向く。
「ななな、何です…っ」
指導って…そんな大層なこと…
先輩に向かって、なんて事…っ
「ああ、謝らなくっていいよ?おかげで今こうして好きな女の子と暮らす事も出来たわけだしね…」
い、いびられてる…なぶられてるっ…
「あ…」
君は、違う誰かと俺がうまくいくのを本気で祈っていたのか…?」
「何故?『意地が悪くてエセ紳士笑顔で平気で人を騙すような男』に嫌われたとしても、別になんてことないだろう?」
私の失言をしっかり記憶かつ再現している所からして、
相当、怒ってるみたい…っ
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