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深く長い眠りの中で、幾度も私を呼ぶ声を聞いた。 口内に甘く芳しい味覚が広がり、意識が鮮明になる。 「小夜…起きて」 静かに緊迫感を含んで囁くような男の声が、小夜の唇を震わす。 「……?」 朧に目を開く。彼の薄い唇から一筋、滴り落ちる赤い…血… 「だ…れ…?」 ギイン!と鋭い音をたてて、小夜のいた石畳を銀の剣が貫く。 「…あら、残念」 その声に反射的に顔をあげて、小夜は、はっとした。 「ディーヴァ…!」 「…おはよう、おばさま?寝ぼけている時間はなくてよ?」 「ハジ…」 混沌とする記憶が、眩暈を伴って小夜を襲う。 「ディー…ヴァ…」 呆然と目を見開いたままの小夜の呟きに、ハジは応える。 「…彼女はディーヴァではありません」 「………え?」 あの頃と髪型は違えど、その声も微笑みもすべて妹のものだった。 いいえ、違う。 あの子は私が、殺した。 そうして螺旋のように捩れた記憶をたぐるが、目の前の現状とは一致しない。 「あれから30年の月日が経ちました。あなたの覚醒を待って彼女はここへやってきたのです。あなたを殺すために」 「…なぜ?」 「簡単よ、おばさま。あなたが私達の母さんを殺したからよ」 指先が刃先に触れ、銀に赤いラインを描いていく。 「短い覚醒だったわね、おばさま!さようなら!」 ハジの防御に一度は跳ね返された剣の切先が再び小夜を目掛けて振り下ろされる。 小夜は、カイの容姿にさらに混乱した。 「ハジ…あなたさっき、30年経ったと言ったわ…なのにどうして…」
その刹那、男は小夜の体を抱きかかえると高く跳躍した。
横抱きにしていた小夜の身をそっと降ろして、自らの身の背後に庇うように彼女から小夜を護るその男性の名を、小夜は呟く。
ふらりとよろめいた小夜を狙って、見えない刃が空を切るのを、ハジの腕が撥ね返す。
同時に、叫び声があがった。
「やめろおおぉっ!」
「カイ!」
「どうして…?」
「どうして、カイは歳をとっていないの…?!」
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